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小理屈「いやカタいのなんの」

禁断のぐるーぶの世界へ

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ジャズのサックス奏者でありアレンジやプロデューサーとしても活躍する、菊池成孔さんの、おそらく名著と言ってもいい本に、「憂鬱と官能を教えた学校」というものがありました。この音楽講義録は、大雑把に纏めると、
「商業音楽の効率的生産に適したバークレー・メソットという西洋音楽理論の変遷と要点、更に、今世紀になって急速にその役割を使い果たしつつあり、今後の音楽の流れは大きく変わっていくであろうという予測論」
ということになろうかと想います。
私がこのバークレー・メソッドを学んだ時は、バークレーという音楽学校の名前は既に非常に権威を持って語られてましたが、取り敢えず理論のことは「ジャズ理論」と呼んでました。和声の動きに関する基本的な挙動であれば、クラシックのものとそうは変わらないのですが、旋法とその旋法に積み重ねられる和音の癖は、明らかにジャズ特有の流れを感じさせていたし、私もジャズ理論と呼ぶことにいささかの抵抗も感じませんでした。多分
今でもあまり感じません。

さて、その講義録での重要な指摘があります。それは、商業音楽は生産性の向上の為に平均律の近似値から(つまり「近い音」に無理矢理寄せて解釈し)転調移調を成立させ、その概念はリズムの領域にも及んでいる、というものです。だいたい4拍子か3拍子に近い解釈をする。そしてそれの怖さは、それで近似値として取り難いものを、音痴としてしまうことです。で、その近似値の中で音楽の美しさを競ったり見出したりもする。こぶしや、ノリの登場です。ノリ、すなわちグルーヴです。

グルーヴを作るには、3連譜や、もっと凝ったもの、例えば5連譜、7連譜なんてものもよく出てきます。MIDIでの打ち込みデータなら、数値でほぼ均等な音の長さでみょうちきりんなフレーズを演奏させることが可能。しかし人間が生身でやるなら…うまく詰め込む為に近似値で納得しておく。そしてその加減で、個性的なグルーヴが生じる。

私は、実はこのグルーヴという言葉がいまひとつ好きではなくて、なるべく普段使わない様にしてきました。ノリというものが嫌いな訳ではないんです。グルーヴというフレーズに、個性やら民族の特性やらを尊重している様で舐めている、西洋商業音楽理論の特権意識の様な匂いを感じるのです。…私の場合、です。これは完全に主観的なもので、全く参考にならないです。よって今日のたにふじは、躊躇せずにばんばんグルーヴという言葉を使いますね。


近似値の内側にグルーヴが生まれる。冷静に考えたらそれは「ノリ難さがノリを生む」ということになります。リスナーの反射神経が譜割りを高速で整えながらノルことで、グルーヴを強く感じる。
変拍子という魔窟があります。基本的な拍ではない拍が混ざり、1小節の1拍めが何処なのかを、強靭な意志で補正しないといけなくなる。それにうまく乗っかれた時の快感は、プログレ・ファンの変拍子ココロを捕えて離さない。しかし、うまく乗っかる為にずっとカウントを取ってないといけない状況は、微妙。TPOは人それぞれ。プログレッシブという位ですから、ヘタをすると頭でっかちなものになるかも。

私は変拍子をあまり使わない作曲者です。多分、あまり音楽に乗っかる、グルーヴに乗っかるという行為が、先出のように言い訳をしても、不得手なんです。しかし、苦手とばかりも言っていられない。世界は動いてる。ポップ・ミュージックが歴史を持ってくるに伴い、グルーヴも振幅が大きくなってきました。
例をあげると、ブラジル。ナナ・バスコンセロスというパーカッション奏者のシェイカーは、かなり癖がある。殆ど9/8拍なのを敢えて8/8拍の文脈で喋っている。こんな説明で伝わるかは怪しいですが、兎に角、拍の伸び縮みは尋常ではないんですね。しかし、ブラジル産ポップ・ミュージックの一般化は近年めざましく、皆普通にあのリズムでノッていけるようになりました。
グルーヴとは何か、という質問に、久保田利伸さんはインタビューで、
「ノリ。なんだけど、それが大勢に浸透していく状態がグルーヴだから、『ノリ伝導』ですかね」
と答えてました。秀逸。また、菊池成孔さんは冒頭の講義録で「律動」という表現をしています。これも非常にバランスの取れた、的確な表現だと想います。原則ではないかも知れませんが、グルーヴと言った時にはその近似値を取り込むリズムは4拍子もしくは3拍子になっていて、そうでない、近似値で解釈を意図していないパターンを変拍子と呼ぶのではないでしょうか。そこにはまたしても記譜法、西洋音楽学が登場してしまうのですが。
ともあれ、中核の音楽学を揺すぶり続けてきたそれらは、遂に自らの振動のみで揺れるようになったのか。そう、確かに和声の動きも、リズムの動きも、いかにも整然と説明してきた筈の理論も、ジョン・ケージとサンプリングの出現によって掻き回されてきました。

そしてもう、21世紀なんですから。
ジャズ理論的には進行していない、和音の系列があったり、積み重ねが、本当に生じているんです。
それはまたいずれ。

by momayucue | 2011-06-30 23:38 | 小理屈「いやカタいのなんの」 | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


by momayucue
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