小理屈「いやカタいのなんの」

エピックの時代を考証する

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スラングとして最近英語圏で使われている言葉に、"Epic"というものがあります。通常のというかもともとの意味は、「叙事詩」で、例えばダンテの「神曲」はエピックになる。厳密には何やら複雑な定義があるというテキストを読んだこともあります。国の創生を語る壮大な詩なので、各国にひとつかふたつしか無い、とかね。
多額な製作費の派手な大作映に、「一代叙事詩」みたいな表現をします。これは、一寸誇大広告?近頃の映画にしろ何にしろ、もう国家の創生どころか地球という天体の存亡クラスになってて、定義で比較したら、もはやEpicでは語りつくせないかも知れないです。で、スラングに話を戻すと、名詞であった"Epic"は、形容的なニュアンスになって来ました。
「こいつはすげえ!」
みたいな。もっとぶっ飛ばした訳をしてみようかな。
「ダンテってやがる」
日本風に言ったら、
「もう、お腹一杯…」


さてその映画、何が面白いって、予告編のお得感たらないですよね。盛り上がるのなんの、本編を上回るテンションの高さ。それは、血管がAKIRAのようにパラパラと切れそうな仰々しい音楽によるところが大きい。私は最近迄気付いてなかったのですが、実は予告編の音楽は、本編とはあまり関係が無く、サントラ界の巨匠ではない、予告編音楽の専門制作会社が作っているケースが多いのだそうです。

その代表格は、"Two Steps From Hell"。彼等は、Thomas Bergersen と Nick Phoenixという2人の作曲家がチーム体制で、会社として音楽を請け負って持ち回りで作っているようです。
何故独立したのか。幾つか重要なノウハウが、作品や彼等のサイトから垣間見えます。
・和太鼓やタブラ等のエスニック楽器を多用し、映画のカラーに併せて使用出来る様に工夫している。更には、それらをサンプリング音源として世界中のDTM(デスク・トップ・ミュージック。PC上で音楽制作をすることの総称ですね)クリエイターや、スタジオに向けの商材になる。一部の気の早い音楽通は、"Two Steps From Hell"こそ全ての楽曲をサンプリングとProTools(DTM、DAWの業界標準ソフトウェア)のみで作っていると信じているようですが、そこはハイブリッド体制。
・合目的的に。例えばずっと畳み掛けるような1曲の中に、必ず主人公の決め台詞場面が入れられるブレイクがある。恐らく業界独自の作品のマナーがある。
・ハンス・ジマー、アラン・シルベストリ等畳み掛け型映画音楽の巨匠よりもギャランティは安くする為に、かなり効率的なレコーディングを行っている風情が見て取れる。スタジオの風景をウェブサイトで観ると、オーケストラのセクションと打楽器系は完全に別枠で録り、それこそDAWで、辻褄を併せるように合成している。パラレルに動くこと自体はもうビートルズ以来普通なことだけれど、殊にエスニック打楽器については、何に使うかも決めずに完全に素材化していると想われます。
・激しい音楽でありながら、所謂ロック的ではなく、基本的にはクラシカルなフォーマット。ベートーベンとマタイとラベルを同時に体験するような。

2分程度でアドレナリンを煽って煽って完結するのが予告編なので、ミニマルな表現をしている余裕もない。随分以前に私が予想していた、これからはこんな種類の音楽が必要になるよ論に、全篇でなく予告編を楽しむというパッケージが偶然符号していた。
偶然に過ぎないのですが、私が予想したのは、iTunesの試聴で起承転結をひとまわりさせることが出来るものが要求される、ということだった。意外にも映画のトレーラーからその世界がやってきた。
そのテの音楽を、先のスラングと同じで、"Epic"と呼ぶそうです。音楽ジャンルとして、認知度は低いけれど特定の世界で重宝されています。

で、偶然の符号について。何故これが登場すると私が予想したか。それは、購入や入手がイージー化しているので、そこに訴求するには2分程度が…と想定してみたんですね。2分程度、とは言っても、ジョン・ウィリアムスや、前出の音楽家の作品で、主題をモチーフにしたクライマックスを教科書に、クライマックスだけのコンテンツを作って作品集にしてそれを愉しむ文化には、過度的な怖さもあります。どんどん刺激を求め、刺激の少ない部分を留保して、更なるどんでん返しを求める。先日、私は初めて「ダイ・ハード」の最新作を見送ったんですね。理由は、90分強というのが何となく物足りなかったから。2時間位は無いとなあ、と想ってしまった。スケールの小さい作品だったら、逆に90分で完全に満足する作品があるのに、いわゆるエピックなものだと、「お腹一杯!」にならないとエピックじゃない、それは、こんにち多くの人に共通の感性ではないでしょうか。
一旦音楽ジャンルとしてのエピックに立ち戻ると、ひとつの曲としては、それ雑な構造はしていない。だって2分ですから…それにしても、音楽的にはシンプルです。構成も、構造も、オリジナリティという意味でも、どれも似通っている。そしてこれは、現代人の求める刺激が、飽和しかかっている兆候かも知れないです。例えば、ある時期から日本の音楽も、リフレインとハイテンションばかりになってしまった。
クラシカルな教養からアプローチしたのがエピック。ダンス・ミュージックから走ったのが、日本の流行音楽。
音楽に限らず、よろずジャンルとしてのエピックを追ってみます。ピクサーというCGアニメーション制作会社のキャラクター設定と、試練と、仲間割れと再集結。約束された感動。そう恐らく、ピクサーはTwo Steps From Hellのお得意さんな筈です。それにあの数々のハリウッドの絶対に満足させてやるという気構えの作品達。更にさらに、24からにわかに最注目されるFAXチャンネルなどのゴージャスなTV番組達。そのどれも、「もう、お腹一杯!」と言わせる。安全な場所での、刺激の飽食。

実は、少しネガティブな書き方をしてしまったものの、それらの全てではないにしろ、私は好きですし、Two Steps From Hell は何か可能性を感じなくもないです。激辛カレーの我慢比べの後に、彼等なら何かを…。

1981年、「死霊のはらわた」という映画が公開されました。相当に凄い作品で、当初はそれ程話題にならなかったのに、口コミで評判になり、監督のサム・ライミはその筋の絶大な信頼を得、スパイダーマンを監督する今日も変わりません。私は10代の頃迄、ホラーとかオカルトが兎に角苦手でした。単純に怖くて耐えられなかったのです。しかし、この「死霊のはらわた」を観た時に、何かが変わった…つまり、笑ったのです。
過剰になり、度を越えて、エンターティメントとして或いは、作品として、澄んだ眼で見られるようになったのです。幸か不幸か…。
エピックの音楽家達は、一寸ダンス・ミュージックを齧ってあてた程度の才能では到達しない、言わば鍛錬を怠らない職人です。だからこそ、本物のこけおどしが作れる。そして、それを愉しんでいる私は、実は彼等がもっと認知された先にこそ、彼等の更なる実験があるのではないか、とwktkしています。

2013年5月時点での最新作、是非ぜひ大音響で聴いてみて下さい。自宅でね。運転中だと勝手にカーチェイス始めちゃうから…。
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by momayucue | 2013-05-26 12:30 | 小理屈「いやカタいのなんの」 | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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