もーしょんぴくちゃー

ブリッジ・オブ・スパイの不思議

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スティーブン・スピルバーグという映画監督が最初に注目されたのは、日本では、「激突」というタイトルで公開された映画、"duel"です。ぼくも子供の頃、何も予備知識なしにこの映画をTVで観て、あまりの緊張感に圧倒されたのを記憶しています。舞台はアメリカの国道。日常生活に疲れたビジネスマンが、不気味なトラックに理不尽に追い詰められる。吹き替えの穂積高信さんも、苛々がつのっていく様子を見事に演じていて、うまかった。
家族がありながら少しずつ日常から逸脱し、時に巻き込まれ、時に自らの意志で、命を賭けた戦いに飛び込んでいく主人公という話が、スピルバーグのストーリーには共通しています。"JAWS"も、「未知との遭遇」もそう。ただ、所謂ファミリー・ムービーにはなり難い、不条理で不気味なのが彼の作風でした。
転換期は、"E.T."で訪れます。主人公は子供達。傷ついた宇宙人との心の交流と、大人や国家からの保護です。今だにこれを超えるファミリー・ムービーはなかなかないんじゃないかな。不条理で不気味なものが好みなたにふじも、E.T.が傑作であることには全面賛成。そして以降、スピルバーグは、不条理で不気味なものは基本的に作らない。町山さんによるときっかけは家族を持って子供が出来たから言うことですが、タイミング的には確かにそうかも知れない。「ジュラシック・パーク」は何処か定まらない人物描写であるものの、映画史に残る傑作のひとつでしょう。それは、CGによる恐竜の再現と、恐竜を現代に甦らせるテクノロジーをDNA採取であると明確に説明したことと、残酷描写を結構踏み切ったことと、もうひとつ、重要な要素があります。
子供嫌いな恐竜オタクの学者が、パークで居合わせた子供達との絆を築く過程が、違和感なく描かれている。

しかし、彼独特の不可思議な人物達や会話が薄れたのは、やはり残念です。亡くなった淀川長治さんは、ヒットメーカーになってからのスピルバーグに、「拝金主義」と手厳しい。ぼくはそこ迄は言わないけれど。

果たして今もスピルバーグがヒットメーカーでいるかどうか、最近の映画事情からすると微妙です。今日のお題、「スパイの橋」は、歳末の映画商戦で、007やスター・ウォーズと正面衝突しています。これ、期待が薄まっていると言わずして何と…。
トム・ハンクス演じるジムと言う超敏腕弁護士は、出世の為なら何でもする今流行りのキャラじゃなく、とても誠実で真っ当で不屈の男(standing man)だ。ソ連のスパイであっても、自由と平等の国アメリカの弁護士として、どんなに周囲に反発されても真っ当であろうとする。彼が何とか極刑をかわしたロシアのスパイはやがて、ソ連の捕虜になったアメリカ人パイロットと、お互いの軍事秘密を維持し、抑止を保つ為の取引きに使われる。そのネゴシエイターとして、ジム弁護士が極秘に任命される。時は冷戦。ベルリンにはまさに東西分断する壁が築かれる。ジムは、その壁を超えて、ソ連大使館に渡り交渉するが、そこには、共産主義経済を学ぶ為にベルリンに留学していたアメリカ人の学生が絡んでくる。学生は、西に戻ることが出来ず、東ベルリンで捕虜若しくはスパイとして拘留されていた。軍事機密を抱えた捕虜にしか興味を示さないCIA。だがジムは、ギリギリの賭けを持って、何とかその両方を救い出そうとする。
動く映像の迫力があるとしたら、米国機が撃墜されてパイロットが脱出するところ位。その他は、とても地味です。殆ど赤が出て来ない、暗いスクリーン。寒いベルリンの、寒々しい風景と、戦禍の生々しい東側で、孤独に闘うトム・ハンクスは、最早名人芸の安定した演技。演出は、さながらスピルバーグ流の完璧な再現映像の様相。勿論それはそれでいいんだ。それがきっちり出来る映画作家は、決して多くない。ジョージ・ミラーなら出来るかも。ロレンツォのオイルみたいに。

スピルバーグよりも少し上の世代に、リドリー・スコットやブライアン・デ・パルマがいます。リドリーはここ暫く、天地が割れて英雄が登場するみたいなものばかりで、大作なのにどうも似たり寄ったりだったのが、邦題「オデッセイ」でフレッシュな作風を取り戻しました。「エイリアン」「ブレード・ランナー」のようなわけにはいかなくとも、少なくとも20代30代に充分に訴えかける勢いがある。J.J.エイブラムスやクリストファー・ノーランと同列並。では、スピルバーグはどうか。どうだろうなあ…うーん…。
アメリカにも現ロシアにもドイツにも配慮を少しずつ施し、適度にどの国も悪者にしながら、孤独で真っ当な交渉人を丁寧に、軽快に描いて見せた。N.Y.、電車からジムが見た、柵を乗り越える子供達の、遠い未来へのベルリンへのメタファーには、壁が市民に壊されるニュースを記憶している人なら誰でもぐっと来るでしょう。今スピルバーグは、いやらしい言い方をするなら「教育映画」を作っている。それはそれで、大事なことだし、だいたいこのレベルで監督出来る人物が限られています。しかし、ジョージ・ミラーが2015年に「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」で世界を興奮させたように、かのスピルバーグがまた、刺激的で、notファミリー・ムービーなヤツを撮って欲しいな、とも想います。やると想うよ。







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by momayucue | 2016-02-15 00:15 | もーしょんぴくちゃー | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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