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もーしょんぴくちゃー

ベイビー・ドライバーくんの冒険

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ぼくは所謂映画秘宝信者ではないです。町山さんのことはかなり信用してるし、ファン、と言えると想います。しかし、映画秘宝という雑誌は、ぼくには一寸キツい。毎号書店で手に取って少し読んでみるのですが、グロ路線とかカルト路線とか、…それらの方面は決して苦手じゃないのに、秘宝で見るといや何もそこ迄持ち上げなくても…と想っちゃう。亡くなったトビー・フーパーの「悪魔のいけにえ」って、ルーツ的な作品だとしてもぼくにとっては名作迄はいかないので、やっぱ一寸ツウ向けな雑誌だなって敬遠し続けてます。
一方、キネマ旬報は手に取ることもない。どんなことが書いてあるのかさえも今や知らない。アートムービー路線なのかスター俳優路線なのかミニシアター系なのか、なあんも知らないです。雑誌の権威は聞き知ってるけど、ゴダールやタルコフスキーやヴェンダースなら、他から知ることも出来るし。ぼくにはぼくの視点もあるし。
てなわけで、映画についてはすっごい身勝手でお手本も何にもない感想文程度な、いつもの感じで行ってみよーっ!



ベイビー・ディレクターことエドガー・ライト。「ショーン・オブ・ザ・デッド」も、「ホット・ファズ」も映画を観てる時間をきっちり楽しませてくれる快作でした。微妙にやり過ぎる感もよかったし、チープなところを自覚的に利用してるところも良かった。イギリスの映画監督です。もし彼がクリーチャーもの好きだったら、ティム・バートンみたいなオタクになってたかも。今もかどうかわからないけどある時期タランティーノの家に居候して、夜な夜な(昼もかな…)映画カルト知識のデスマッチをしてたとか。で、どうやら勝ってたとか。そのエドガーさんが、盟友サイモン・ペッグとのタッグではなく、アメリカのスターをキャストして、アメリカはアトランタで撮った映画が、これ、「ベイビー・ドライバー」

あらすじを。
主人公は、ベイビー。B.A.B.Yのベイビー、という名前です。殆ど「男の子」って感じのアホガキなのに、どういうことか、異常に運転が巧い。しかも、技術だけでなくかけ引きが素晴らしく、監視の眼をかいくぐる技術も、実に頼りになる奴。自分の殻に閉じ籠るっていうかコミュニケーションを取りたがらないが、「ドライヴ」のライアン・ゴズリングみたいにクラい人ってこともなさげ。謎めいてる。まあこの謎はそんなに謎じゃなくて、映画の前半でいきさつはわかっちゃうんだけどね。ベイビーは、運転の冴えを利用して…というか利用されて、銀行強盗の闇組織で逃走専門のドライバーで稼ぐ。強面の元締めはベイビーを高く買ってて、かつてベイビーに貸しを作ってたのでその分をピンハネしつつ、極悪なメンバー達から庇うなど、優しい面も。ベイビーは或る日、ダイナーのウェイトレスに恋をする。そして彼女を、強盗の闇組織に巻き込まない為に、車で、脚で、奔走する。

冒頭のカーチェイスが終わってベイビーが珈琲を買うシーン。ワンカット。大袈裟なフラッシュモブで往年のミュージカルを気取った無駄に野心的な某ワンカット演出よりも遥かにいい(毒)。

ここから、少しネタバレになります。ご用心。
一応ストーリーとかオチには触れませんが、一寸核心に近い深読みになるかも。
里親への態度。彼女への接し方。一見コミュ障にも想えるベイビーは、日常生活ではとても好人物。ダーティな稼ぎをしてるのに、質素な生活をしてる。心を開いてる順に口数が増えるので、強盗一味とは必然的に喋らない。無欲に近い。ただひとつ、ビートミュージックを作るのが趣味らしい。それも、隠し録りした日常会話をループに乗せてトラックを作り、カセットに保存する。勿論iPodにも入れるけど。
どう?気持ち悪いっしょ?ストーカーっぽい。それはある意味正しくて、遠くから写真撮ったりはしないけど、例えば彼女の声を録音してなんか作ってたら、迷惑行為で半径300メートルに近付かないように裁判所命令出ちゃいそうです。ところがベイビー、このベイビーは、不快感を与えないように注意してるし、踏み込まない。付き合いにくいけど、やっぱりいい奴なんです。そしてそれが、じわじわと後になって逆な不気味さを醸し出す。
悪に染まり切らない。悪なんて恐れない不適さを見せてるのに、自らは拳銃を手にしないし、やむなくそうなってもなるべく人に向けないし、やむなく向けても威嚇とか、やむなく威嚇を超えても脚とか。そして、強盗達が殺人を犯すのに露骨な嫌悪感をあらわし、逃走中も銃口を向けるのをハンドル捌きで妨害する。ヘタレ迄は行かないが、要するに一般人だ。では何故こんな生き方をしているんだろう。タイマンが強いかどうかは怪しいけれど、何か闇を抱えてるのは確かだ。それはいったい、どんな闇?
ぼくはあらすじの段落で或る重要な設定を避けて書いてました。何か。彼は、音楽がないと生活出来ない、殊に「肝心な仕事の時」は、ラウドな音楽で漸くフル・ポテンシャルになる。この設定ですけど、必要ですか皆さま?無くても、成立するでしょう。なのにこの設定になってる。トラウマはあると想います。しかし、後天的か先天的か、ベイビーは、僅かにアスペルガー症候群の片鱗を見せている。日常生活に影響が出る程ではないけれど、少し逸脱してる。重度なアスペルガーで且つ特定の才能が秀でている場合、サヴァン症候群という呼び名がありますが、サヴァンは重度のアスペルガーと常識離れの能力を持っている場合。ベイビーは一応日常生活出来てるし、サヴァンにはあたらないけれど、運転の能力が圧倒的。そしてその能力を最大限に活かすには、スイッチを入れないといけないんです。普段彼を苛ませている、耳鳴り。それを止める為に、音楽を大音響でかける。邪魔が無くなり、ベイビーは、静寂を奪われるが、逆説的に静寂を手に入れる。彼にとって音楽は、イニシエーションの為の重要な装置だ。
ここで分析から離れて、一寸個人的な話を。ぼくは自分で音楽を作るようになってからずっと、劇伴の音楽、所謂サウンドトラックが気になる人でした。映画音楽も必ず気にしてた。全く音楽が無いタイプの映画でも、その無音が聴こえてた。しかしこのベイビー・ドライバーの全編に流れる音楽は、いかに巧妙に使っていても、もたらすものは静寂でした。あれ程喧しくても、あれ程ノリノリでも、映画の感触はぼくにとってはあまりPOPではない。寧ろファインアートに近い。ヴェンダースとかの路線を強く感じる。正しいかどうか、ぼくにはわからないけど、事実そうでした。

過去のエドガー・ライト監督の作風は、どちらかというと映画秘宝の読者にハマるものでした。しかしベイビー・ドライバーは、果たしてそうなのか。ビョーキではない、病。登場人物の大半が死んでしまうけれど、彼はなるべく人を守ろうとしていた。最後の最期迄。それが十字架であるかのように。重厚で巨匠の作品みたいだ。映画秘宝的にはどうなんだろうと老婆心を持ってしまう。考えてみれば映画オタク少年丸出しだったエドガーも、もう43歳。スピルバーグもスコセッシもデパルマも、もっと若くに風格のある映画を撮ってたんだから、彼だって「ザ・名作」を作ったって仕方がないし、ぼくには、嬉しい。

はっきり言います。ベイビー・ドライバー、ぼくの古典になりました。大好きです。これから何度も観るでしょう。DVD出たら買うなこれは。














by momayucue | 2017-09-16 18:26 | もーしょんぴくちゃー | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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