もーしょんぴくちゃー

「新感染ファイナル・エクスプレス」の恐ろし過ぎる見落とし

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昔々、たにふじは怖いものが怖い人でしたとさ。
怖がりすぎてマイケル・ジャクソンのあの曲でさえ怖かった。何故か記憶の中で重なる部分が出来ちゃったばっかりに、南沙織のとあるヒット曲でエンディングにチラッと出てくるホーンアレンジも、
「あ、あの曲だ…」
とビビってた。何かのオカルト映画のTV予告編が、たまたま似てた、それもホンの一寸だと想うのだけど、似てた。
それで南沙織が怖いって…。気の毒だ。寧ろ南沙織は被害者だ。

ゾンビものには、当blogで以前も重層的に書いてました。
自己の変質に関わる恐怖。自分を維持出来ない恐怖。そしてその他に(これが一番怖いのだが)、隣人から感染してくる恐怖。この3つは、様々に形を変え、ゾンビカルチャーを彩ってきました。しかしそれがフォーマットとして定着すると、そこに色んなものが乗っけられる。最初にそれをやったのは、言う迄もなくジョージ・A・ロメロ監督。まあもっとも当時はまだ余裕でゾンビは怖かったんだけど。

ロメロはまず、眼に見えない思想の侵略と、人種差別をゾンビと重ねあわせた。次に、アメリカ人の無気力な消費文化をゾンビに背負わせた。ダニー・ボイル監督は、もう変容したゾンビにノスタルジーを持つのを辞めて、ゾンビよりも人間の方が醜悪だ、と言い切った。ザック・スナイダー監督は、舞台設定がロメロと殆ど同じものを使いながら、インターネットによる情報の伝播とその混乱を人間に被せた。全力疾走するあいつらは、ロメロ派とはもう別のものだった。そして、イケメンゾンビも登場し、人権が復帰する。親離れ出来ないイギリスの男に親離れをさせる装置なんてゾンビも出た。

作品としては一寸ぬるい気もしなくはないけれど、韓国発のエンターティメント映画が世界的に話題です。原題は、「釜山行列車」というヤツ。画のトーンは明るく、ホラーというよりもパニック映画で、はじけっぷりはWorld War Zに似ている。それだけなら良い意味でぬるいとなるんだけど、この映画は、ぼくから見て重大な何かが足りないんですね。

あらすじと、背景をいつもの通り。

ソウル市内で、噛まれるとすぐに死に、数分後に凶暴になって人間を襲うウィルスが、じわじわと広がる。ソウルから韓国国内を侵食し、生存者は半島先端の釜山に迄追い詰められる。釜山では、軍がかろうじて防破ラインを維持していた。物語は、ソウルで金融マネージャーをしているソグと、その娘を軸にした群像劇。
コン・ユ演じるソグは、冷徹な金融トレーダー。妻は仕事一筋の夫を見限り、独りで釜山に暮らす。娘のスアンを愛しているソグだが、娘にはどう接していいかわからない。家庭の事情からか学校でもストレスを抱えるスアンは、どうしても母に逢いたい、と言ってソグに抗議し、やむなくソグもスアンを送り届ける為、釜山行きのKTX(韓国高速鉄道)に乗り込む。同じ列車には、妊婦の妻を気遣うマッチョな正義漢や、高校の野球部とそのアイドルであるマネージャーと、忍び寄る危険から脱出して便乗したホームレスが。そして、…ゾンビウィルスに感染し、発病した少女も、飛び乗ってきた。列車の中で、外で、次々に感染者が人間を襲い、その勢いは歯止めが効かない。車内でのパニックと、国内の様子を伝えるニュースで、乗客は危機が国中を覆っていることを知る。ソグは自分達だけでも何とか助かろうとビジネスのコネを駆使してみるが、途中駅でも既に手遅れだった。そんな中で、協力し合う乗客や娘の姿に、自己中心的な人間から捨て身で戦う父親に成長していく。

先に述べたように、今はゾンビというだけで恐怖映画が成立する時代ではなくなりました。そもそもロメロからして本当に恐ろしいのは人間だというスタンスを強調していたし、まあよく考えたらホラーというのは「人間の恐ろしさ」を描いたものを指すもんです。容姿が怖いとかは、子供向け。最近のゾンビものは、うまいことその恐怖さえも、理性と割り切りで克服した体裁があります。
「もう感染してるんだ。追っても無駄だ」
「何とか俺達で助け合おう」
それは結局は、ゾンビという概念に慣れた現代の作家による作品なんですよね。もうゾンビの無い世界には戻れない。昔なら、何が起こっているか理解出来ず、薄情になり切れなかったり、想い出が影を落としてたり、ただおろおろとしてたりしたわけでしょう。核戦争だって、僕等の世代だと、アメリカが「ザ・ディ・アフター」なんて言うどうしようもない基礎知識で作った原爆の映画を知ってる。当時はあの映画を観て原爆の恐怖を初めて肌で感じたアメリカ人も、今なら、…多分苦笑いする。時間は戻らないのよ。ゾンビはもうそれ自体が恐怖の象徴ではなく、闘うべき敵になっちゃった。
「新感染~」はゾンビ自体に恐怖のメタファーを背負わせていない点からして、もう完全にアフター・ロメロだし、基本的にパニック映画でありアクション映画なので、画面は必要以上に陰鬱なトーンになりません。だいたい昼間だけの映画だしねー。夜の場面が全くないんだから。これ実は画期的なんじゃないか。
ソグを演じたコン・ユは、アクション映画の傑作「サスペクト 哀しき容疑者」で、北朝鮮の元特殊部隊出身で今は韓国に亡命しひっそりと暮らすチ・ドンチョルを演じた、ミドル世代のスター。彼が主演に坐ることで、映画のランクが上がる。身体を張ってスタントも演じているが、それだけじゃない。チャラい若手とは違う、真っ当な俳優。サスペクトは確かに元ネタが殆どボーン・シリーズからの拝借だけど、朝鮮半島の分断事情や南北のどちらも一定の悪い側面を扱うことでオリジナリティを確保し、見応えのある素晴らしい作品となっていました。「新感染~」もなんとハリウッドでリメイクの動きがあるらしいけど、果たしてオリジナルを超えられるか…、そういった意味でも、客が呼べる韓流俳優のコン・ユが主演なのは、とても意味がある。

それからこの作品にはもうひとつの側面があってですね。
監督のヨン・サンホはこの作品で初めて実写映画を撮った(まじか!)人物で、元来はアニメ作家だったらしい。シンゴジラの庵野さんみたいな感じかな。わからんが。でねでね、「新感染~」は原題が「釜山行列車」だったのは述べたけど、実にうまい符合の姉妹作品があるんです。「ソウル・ステーション・パンデミック」。ソウル駅の地下はホームレスの巣窟になっている。その中のひとりが、ゾンビウィルスに感染した。最低階層での発病。そこからじわじわと、いや、猛然と広まっていく感染。恋人と喧嘩して裸足でソウル市内を彷徨う少女と、事態を知り彼女を助けようとする恋人の物語が、こちらの軸。格差社会の醜悪さ。軍隊は極悪だし警察は無能だし。疑心暗鬼。嫌な嫌な方向に進むストーリー。「新感染~」も初実写とはにわかに信じ難い傑作だったけど、ヨン・サンホさんをよく知る人にとったら、こちらの方が所謂サンホ印なのではないやろか。アニメ的な荒い線。萌え系の独りもいないキャラクター像。そしてこちらの映画は、終始、夜です。画面も暗けりゃムードも暗い。一寸「28週後」を超えそうな程の絶望感…。
そしてその衝撃のラストも含めて、韓国の格差社会を告発する。非常に政治性が高い作家なのがわかります。

この2作品両方が符合した時の映画世界が放つパワーは、いや凄いですよ。

と、ここ迄は絶賛でした、たにふじは。新しいゾンビ映画は、ものの見事に韓国の現代を浮き彫りにすることに成功しましたよ。

ところで、一寸困ったことが。
ゾンビって、どういうロジックになってるのかわからないけど、人間に感染して、人間を襲ってく「だけ」じゃないですか。「だけ」っていうかそこが難儀なんだけど、何故か、ルールとして、人間が犬を襲ったり、カラスに噛み付いたり、しないですよね?ですよねですよね?
ちゃんと見てないけど、「バイオハザード」のシリーズでは、犬らしきものが出てきた気がする。あれ、噛まれて感染したんですか?それとも、アンブレラ社が兵器として密室で感染させてアリスを襲わせたんですか?わからん。でも、バイオハザードの世界では、全犬が感染したとかじゃなさげですよね。もしかして哺乳類はみんなやられてるってことかな。実際、映画の風景では、生物という生物がやられてる印象だ。
そうです、そこなんですよーん。「新感線~」は、冒頭2分で、車に撥ねられた鹿がゾンビ鹿になって立ち上がる場面から始まる。鹿は、鹿を喰うんですか?だって人間は人間だけを喰ってたもの。だったら鹿は鹿だけだよね?ゾンビウィルスは、人間と鹿に蔓延してる…、でいいですか?
え"え"ーーーっと、自然じゃないよね。だったら、各動物毎に、全種類じゃなかったとしても、そうとうな動物達に、それぞれのゾンビが出てきてる方が自然だよね。

この、誰もが、
「こ、こわいですねぇ~おそろしいですねぇ~」
で済ませてしまいそうなディテールが、どうも腑に落ちないんですよ。
感動の大団円を迎えた後で、
あれ?鹿は?あの鹿はどうなったの?
あいつはやばくないの?と気になって気になってしょうがないわたくしなんだな。

あとねー、ほんとはもうひとつ許容範囲なんだけど気になるところがある。
でもそれは、あまりにもあまりにネタバレに抵触するので言えません。
(最初のあの娘は、ソウル・ステーションの…)


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by momayucue | 2017-11-18 23:24 | もーしょんぴくちゃー | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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