N.Y.での一寸泣かせる話シリーズ

前編 Every breath you take/Police ぼくがN.Y.に行く数カ月前の或る出来事

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ごく在りがちな状況でその日の夕方の電車に乗っていたぼくは、後ろから声をかけられた。見ると、中学時代の後輩のO君(仮)です。
彼は妙に、と言うよりも異様に真顔でぼくにこう言うのです。
「先輩、実はですね、折行って相談したい事が有るのですが…」
「なな、なんだよ」
混んだ電車の中で一寸たじろぎながら、ぼくは尋きました。
「先輩の知ってる娘で、H(仮)っているでしょ」
「うん」
惚れたのかなと想った。H(仮)はボケッとしてるけど、そのボケッとしてるトコがダンシに人気の娘だ。気弱なO君(仮)が惚れそうなキャラなのである。実際、コイは盲目、レィチャールズ盲目スティービーワンダー盲目、電車に乗り合わせた人がみいんな耳ダンボになって聴いててもおかまい無しだ。ところが、O君(仮)の切りだした話は、ヘビィだった。聞いてたぼくの薄笑いが引きつった。
「H(仮)ちゃんは、最近、宗教をやってるんです」
「げげっ宗教!!」
ぼくは車両内をキョロキョロ見回した。何がやばいって、こういう時に同じ車両に宗教関係者が乗ってたりしたら、この状況は非常にヤバイ。
「でもさ、なんで宗教が良くないの?別に回りに迷惑かけなきゃいいような気もするけど。無理に勧誘するとか、霊感商法とかあるじゃん、ああいうのじゃなきゃ別に…」
「あるんです!」
O君(仮)はキッパリ言い切った。
「ヘンなビデオで催眠術をかけて、信者にしちゃうんです。H(仮)ちゃんみたいに若くて可愛い女の子は、乱交パーティーとかに出させて、みんなで強姦したりして、それでまた新たな信者を増やしたりしてるんです」
かなり気分の悪い話になってしまった。ああ気分悪い、まったく気分悪い、実に気分悪い、まったくO(仮)って奴は…。気分が悪くなってぼくはこう言った。
「気分悪い」
「でしょう、それで無理にやめようとすると今度は、無茶苦茶な金を払えとか言って、」
「気分悪い…」
「それで監禁して排泄物を食べさせたりした人もいるっていうし…」
「…」
「で、最後には、おまえは呪われる、地獄に落ちると決めつけられるんです」

O君(仮)の、気分の悪い話が終わった。
「気分が悪い…」
とぼくは言った。
「ほんとですよ」
とO君(仮)は言った。
「おめえだよ」とぼくは言った。
「えっ?」
「さっきから黙って聞いてればすっかり調子に乗って、お前何言ったか解ってんのかよ。とんでもないことを公衆の面前でデカイ声で」
「でもそのトンでも無い事が事実なんです」
「もう止めろよこのバカ」
ぼくは大声を出した。
「乱交だの強姦だのと名前を挙げて電車の中でわめき散らす奴なんて最低だ」
電車の中が静まり返っていた。O君(仮)も、急にシュンとなった。

降りる駅も、歩く方向も一緒だった。成り行きでぼくは、この超単純男と歩いていた。O君(仮)は今、大学でボランティア活動をやってる、と言った。
「We are the worldのビデオを上映して、募金を募ったりしたんです」
「ふうん」
と、ぼくは曖昧に合いづちを打っていた。どうも暗い話の様な気がした。O君(仮)の自慢話がしばらく続いた。その内容は、結論から言えば、なかなかに立派で役に立つものだったと想う。でも、気分屋のぼくは、その時のO君(仮)の暗いけどちゃんと役に立ってる行動に対して、
「暗い」
としか言わなかった。
「役に立ってる」
ことには触れなかったのだ。つまり、その頃にはぼくはもう、O君(仮)が鼻についてきてたってこと。
「ポジティブじゃ無いんじゃない?なんかさ、O君(仮)がやりたい事をやってる様に想えないっていうかさ…」
「ポジティブって、何をすればポジティブになるんですか?」
O君(仮)は、自分のキャラクターが地味だって解ってるから、このテの言葉に非常に弱い。たとえ自分の方に利があっても、つい、お窺いを立てます口調になってしまうのだ。ぼくは調子付いた。
「行動しなくちゃ」
「行動…ですか。今の活動だけじゃ無意味ですか」
「無意味、だね。有意義ではあるけど」
屁理屈としても一寸苦しい言い分を、ぼくは堂々と展開していた。
「ぼくだったらさ、障害者とか、難民の中に飛び込むっていうか、一緒に暮らすとか、そうするけどね」
「いや、ぼくのサークルではこの間...」
「サークルじゃ駄目なんだよ。自分がやりたい事をするのに、何かを背負っちゃ駄目だ。ぼくだったら、サークルを利用してやるならともかく、サークルの方針に従うんじゃ、自分がやりたい事をやった事にならないように感じるな」
「…そうです、ね…」
「あったりまえじゃん。飛び込まなくちゃ、ドーンと」
「ドーンと、」
「ザッパーンと」
「そうかあ」
てなわけで、ぼくはO君(仮)を丸め込んだ。

が、オマケが有るのだ。
「先輩は、何に飛び込むんですか?」
「音楽だな」
「音楽ですか」
「飛び込むってのは、現場に飛び込むわけじゃん。だからぼくはね、N.Y.に行く」
「音楽はN.Y.なんですか。日本に居たんじゃ駄目ですか」
「本当に最先端の音楽が有るのは、やっぱりN.Y.が一番だね」
「行くんですか」
「ああ」カッコつけて、ぼくは言った。そりゃ行きたかったけど、そんな計画は無かった。金も、勇気も、コネも、それに目的も、無かった。実力、N.Y.に行く資格が無かった。
「カッコイイすね!」
O君(仮)はそう言った。ぼくも、カッコイイ話だぜ、と想った。

その夏、彼の同期のAちゃん(仮)から電話があった。
「おおAちゃん(仮)、どうしたい」
「O(仮)が、死んだ」
O君(仮)の事なんて、すっかり忘れていた。
「し、死んだ?」死んだって!なんで?
「溺れた」
「…」
溺死、海の事故、…。Aちゃん(仮)は続けた。
「溺れてる人を助けようとして、たいして泳げもしないくせに、飛び込んだらしいよ」
「…」

ぼくは気弱なタイプの人間だ。有言不実行型のホラ吹きだが、もう逃げ場が無くなってしまった。さすがに。だからまわりじゅうに、
「N.Y.へ行く!」
とホラを吹きまくり、向こうで頼れそうな人を探し、バイトをし、"渡米コンサート"をこじんまりと行い、完全に自分をがんじがらめにした。もう駄目だ。行くしか無い。

結局向こうで頼れそうな人は見つかんなかったけど、一年後の夏、ぼくは一人きりで、N.Y.へ向かったのです。

動機は、数え切れないほど沢山あった。全ては見切り発車でした。

※画像は、渡米前のコンサートで演奏したカヴァー曲。
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by momayucue | 2007-08-09 18:48 | N.Y.での一寸泣かせる話シリーズ | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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