08年7/20 写真右の素敵でキュートな老紳士が、他界されました。
随分昔、犯罪小説の様な、パニック小説の様な、冒険小説の様な、なななんと原稿用紙600枚以上の長編を書いてしまったことがあります。
主人公は、地味なギター奏者。
彼は、「チカ」という地下にある小さな老舗のバーで、江田義雄という屈強で知的で陽気な中年の電話修理屋とすれ違い、実にまあとんでもない事件に巻き込まれていく、という物語です。小説の中で、次第にこの店の老バーテンダーも、ストーリーに絡んでいくことになりました。気付いたら、そうなっちゃったんです。
その「チカ」というバー、モデルは銀座の「ルパン」。
私はある時期、お金もないのに頻繁にルパンに通いました。
「今日は実は、3000円しか無いんです」
とか言いながら、カティサークをダブルで貰ったり。
高崎さんという老バーテンダーは、そのうち、
たいして上客でもない30歳そこそこの私の顔も憶えてくれて、
軽く会釈して下さる様に。
私がいつも座る席は、太宰治が座った席でもあったらしく、
壁に写真が。
「なんてこった、僕は人間失格かよ」
なんて、とても誰も笑ってくれなそうな冗談を呑み込み、
決まってその席から店を眺め、
混んでくる時間に退散してました。
そう。これは、誰のはげみでもない。
私の良き記憶。
何かにいらつき、自分に苛立ち、
ルパンという「いつもの店」で、独りになる時間を得る。
静かに、音楽もないバーで、独りになる。
もう随分経ってしまったけど、高崎さん、ご冥福をお祈りします。