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小理屈「いやカタいのなんの」

君はまだ本当の自分を知らない

マーカス・ミラーがまだ新進のチョッパー・ベーシストだった或る日、JAZZをやっている身にはとんでもない大役を受けました。あのマイルス・デイビスの長年に渡る病気療養後の復帰バンドで、延々ワンコードでベースラインを弾くというものです。マイルスが最初にマーカスにかけた言葉は、
「おまえ凄いヤツらしいけど、パッと見は蚊トンボだな」

その数年後、マーカスは更なるお言葉を帝王マイルスから賜ります。

復活した時期、81年頃、マイルスのバンドは、基本的にワンコードのジャムバンド。ドラムはアル・フォスターでした。つまり、かっちりとしたサウンドではなくルーズなノリ。マーカスはマイルスのインプロビゼーションから意図を嗅ぎ取り、テンポから展開迄を、つまり全体をコントロールする役割を果たしていたのです。
が、次第にそこが変化していきます。
君はまだ本当の自分を知らない_d0041508_2135439.jpg帝王復活は、"The Man With The Horn"というアルバムから(さいこー!!!)。ここからビル・エバンスやマイク・スターンらが旅立ち、ニュー・スターになっていく。その後ジャム形式は"Star People"迄続く中、幾度かメンバーチェンジを繰り返すのに、アル・フォスターとマーカス・ミラーだけが不動でした。当時既にセッション・マンとして多忙を極めていたマーカスは、ラリー・グラハム風なゴリゴリスラッピング(解説、チョッパーです)ではなく、クリーンで濁りのないフュージョンのスラップ・ベース奏者という評価。それも、若手でありながらパイオニアでファースト・コール。しかもマイルスの息がかかっちゃ、もうみんなベースでは一目も二目も置くわけです。本人だって当然そういう自負を持っていたでしょう。当時更に、マイルスのコンセプトは、プリンスやらの台頭をも吸収し、メロウでスタイリッシュに変貌していく。そこでも、マーカス・ミラーは重要な役割を担い続けていたんです。

ところが或る日、なにげなくバス・クラリネットを吹いていて、
「やっとお前の楽器をつかんだな」
とマイルスに言われてしまう。それは、音楽家としてのステージが上がったというニュアンスと、言うなれば「天職」に出逢ったという、天啓みたいな話。

マイルスは帝王ってぐらいだから。
同じ時期にサックスのビル・エバンス(ピアノじゃないよ)は、
「テナーを吹け」
というお達しを。しかし、ステージには必ずソプラノを用意していた。何か想うところがあったんでしょう。でもねえ、マイルスに言い切られて逆らえるものじゃない、ずっと彼は用意していた楽器を横目に、テナーを吹き続けたんです。そして、或る日遂に意を決して、ぶっつけでソプラノを手にした。
出来は…どうだったんでしょう。その日帝王は、
「(ソプラノを吹く時を)待ってたぞ」
と言ったのだそうです。多分、あのダミ声で。

以後、ビルもマーカスも、漸く手にした天職に転職した…なんてことはなくて、ちゃんとTPOで仕事をしていく訳ですが、そのインパクトは絶大で、
「それが(自分の楽器が)ベースでなかったことに、非常に驚きました」
と後にマーカスは語っています。
何故そうなったのか、について、私は考えてみたことがあります。マイルスは何故そう言ったのか。バス・クラリネットに何を見たのか。たにふじ説は…、
「低音楽器の人が同じく低音楽器を、しかもお手の物の楽器よりも若干不慣れに、考え考えしながら演奏したら、アタマの手癖を翻訳しながらフレッシュな演奏をすることになったのと、だいたい楽器自体がレアだから、それまでのセオリーを突き破るスペースも沢山あって、すぐに頭ひとつふたつ突き抜けたってことと、マイルスにしてみれば『帝王』として勲章を与えるチャンスだと想ったんじゃね?」

私の大好きな「見も蓋もない話」になってしまいました。確かにその後のマイルスとマーカスの蜜月は、活動時期的にはギル・エバンスよりも長く、マイルス没後も彼は呪縛されていて、いまだにマイルスの影を背負った活動をしています。
一般に天啓というか呪いというか、そう言った影響力の強い言葉は、実は言い放った側はあまり意識していないのに、大きな影を落としてしまう様です。私は身近な心霊現象の幾つかを、それによるものなんだと気付いてしまったことがあるんですね。帝王マイルスはそこは自覚的で、自らのステイタスも、本人へのプレッシャーも、知っててやってるのですが、実際に天職を見抜くなんてのは、よっぽどのことです。天職に出逢えるかどうかもそうそう判らないし、天職なんて存在しない人だっている。逆に、忌野清志郎が寝ぼけ面で出勤して部下の報告に適当に返事してる様な上司の職場だったら、
君はまだ本当の自分を知らない_d0041508_18343023.jpg

天性の管理職よりも更に結束が固まり、且つお気楽で成果が上がるオフィスになるかも知れないじゃない(バンド活動もし易いし)。視点によって、向き不向きでさえ変わってしまうかも知れないじゃない。
デトロイト・メタル・シティというマンガ、ご存知の方多いでしょ。自分の本質はフォークなのに、デスメタルのカリスマになっちゃった話。有り得る。もうどう克服していいのか、身近にいたらどう声をかけたらいいのか皆目解らない。

もまゆきゅの音楽について、ヘタとかダサいとかの他に、
「ニセモノ」「真剣みが足りない」「趣味がいいだけ」「感動がない」
なあんてのもあります。きっつい!しかし当人はよく解らないで、自分の物差しと他人の物差しを比較しながら、ダメージ覚悟で進む。なけなしの向上心と冒険心とで。時は流れる。時間は経つだけで、解決に向かってるとは限らない。

マイルスに尋ねたいことが。2つ。
その1「そんなあなた、他人の人生に重大なことを言っちゃうんですか?」
その2「でも、ぼくは気楽に受け止めるつもりです。背景や理由を検証しつつ、自分の直感を信じて。あなたもそうしたんですよね?」

もまゆきゅが進むべき音楽…とても絞れない。音楽好き過ぎて。あれもこれも、似合っても似合わなくても、やりたいと想えなかったら出来ないですし、やりたいと想っちゃったら最後ですし。
ゆーこ姉さんは、様式含めソウルフルな音楽が好き。確かに彼女の男前な部分は、誰の眼からもソウルフルでしょう。アレサ・フランクリンの様には歌えなくても、彼女のソウルなソウルは、ソウルを求めて已まない。一方私は、ボサノバずばりをやりたい訳ではないし、やはり鉄弦にしたい。好きこそものの上手なれ。じゃなかったとしても、「好き」は恋だから、落ちるものでしょう。

ただ、恋にもふたとおりある。一目惚れと、友達から始まり紆余曲折を経るのと。更に、出逢えない恋を、プラトンの様にイデアで感じるのを含めるかどうか。
by momayucue | 2011-11-24 18:34 | 小理屈「いやカタいのなんの」 | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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