恐らく世界最大のヒット作としてのイージー・リスニングの音楽家は、アントニオ・カルロス・ジョビンではないかと想われます。かの"WAVE"は高感度な輩からエレベーターのみなみなさままで、そこかしこで愛聴されています。世界一多くのバージョンが存在する楽曲は、「イエスタディ」と並んで、「イパネマの娘」であるとも、よく語られていますね。所謂クラシックの分類には入らないポピュラーをストリングスなどで優雅に演奏したものが大方のイージー・リス ニングのカテゴリーとすると、ライト・クラシックなどと呼ばれているルロイ・アンダーソンなどは、少し微妙なところ。逆に、故淀川長治さんの「日曜洋画劇場」エンディングで流れる、名曲"So In Love"の壮大なアレンジなどは、ピアノによるアルペジオの取り方と言い、ストリングスの充実し切ったカウンターラインと言い、さながらラフマニノフですが、何しろこのアレンジを施したモートン・グールド自身が、 「ムード・ミュージック」という言葉の提唱者であり、代表格。
所謂ジャンルとしてのイージー・リスニングを私が広くカバーしているかというと、どのジャンルについてもそうである様に、甚だ心許ない状況。たにふじのレコード棚で、イージー・リスニングで山下達郎さん風に「棚からひとつかみ」をやろうとすると、ルロイ・アンダーソン、モートン・グールド、ジョビン、それから…。やっぱり、むせび泣くストリングスのジャッキー・グリソンでしょ。それから、エキゾチック・サウンドのマーティン・デニー、レス・バクスター。バリー・ホワイトの"Love's theme"。映画音楽も入れていいなら、かなり多様化しちゃうんだろうな。
それから、若山弦蔵さんの、「お疲れさま、5時です」のテーマなんですが、これは入手してない。何処かで手に入らないかな。
私がイージー・リスニングに拘るきっかけとして、都倉俊一さん、ミッキー吉野さんの発言が、何故かとても鮮明に記憶に残っていると書きましたが、これら全く正反対の意見が、何とかひとつの方を向かないだろうかと言うのが、今日迄私の音楽のテーマでした。ひとつの方向を向く、どうすればそれが…。今やすっかりひねくれた音楽マニアになってしまった私が、それでも決して手放さない解答は、「凡庸」です。
凡庸って、何だろう。
多くの人が、多くの教育システムが、多くの教訓が、非凡を語る。一歩先を行け。成功を目指せ。他人に勝て。あまり声高にしたつもりも無いのに、いつの間にかこのblogでも楽曲のテーマでも、とっくにばればれですが、世界の本質は、凡庸である、と私はどうしても繰り返してしまいます。全員が先に行ったら誰も 先に行ってないし、全員が他人に勝つには最低でも人数分の勝負事とそれに回り逢えるシステムと、更には負ける為の戦いが必要。全員が天才になったら、そこには天才はいないのです。当たり前です。
凡庸から思考する。前衛も、ばりばりのロックンロールも、民族音楽も、パンクも、わらべ歌もテクノも、兎に角、うさぎにつの、凡庸を軸に受け止める。つまり、その道のオーソリティやオピニオンリーダーになってしまわない。何かを信じるあまりに、何かを憎んだり、否定したりしない。否定だけを否定する。普通であることを、肯定する。
今回、久々にイージー・リスニングに熱く長く語ってしまったいきさつは、ひょんなことから、isozakiさんという方のホームページを知り、ずっと捜していた曲の謎が溶けた、しかも、流通されていると知ったことからです。迷ったのは、いつ買うか、だけでした。予算が調達出来たら、すぐに買おう、と決めました。
何度かその方とメールの やり取りをさせて貰う中で、おそらく許諾などの問題、購入者のマナーなどに相当ご苦労されたのでしょう、当初はかなり堅めな文面でした。が、かなりなリスクを負いながらも、何とかリスナーに、良いものを速く届けようと奔走している熱意が伝わって来ました。私が夕方に振り込んだのを深夜の内に確認し、翌日には発送した旨をメールで頂いたときには、
「ちゃんと振込確認しましたか?私が嘘つきだったらどうするんですか?」
みたいな驚きを返信すると、
「ちゃんと確認してます。以前は騙されそうになったこともあったので…」
今は流石にそんなことはしていないそうですが、申し込みが確実であれば、何とか土日の休み前にお届けして楽しんで貰いたい、という一心で送っていた、と。いいひとすぎ!
届いたアルバムは、本当にムードに溢れたとろける様なサイコーなものでした。ラジオで紹介されたこともあり、これから様々なところから注文が増えることと想いますし、どうか無理をなさらず、長くこんな企画を続けて下さい。また出来れば、今の処まだセットものを一度購入しただけの私ですが、今度とも仲良くして下さい、なんちて…。
あとマニアな皆さん、買ってあげてね。なんちてなんちて。
ともあれ、音楽マニアに片足ずつ両足(?)突っ込んだたにふじは、街で流れる音楽にもグッと来てしまう体質なんです。