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テロ・ライブ 韓国電影参上

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テロをライヴする。

ぼくは基本的に韓国映画を知らないです。数本観たことがありますが、どれも、所謂話題作でなく、地味なものでした。例えば、「トガニ」なんて、知ってます?コン・ユというラブコメのスターが主演の、かなり暗い、地方都市の闇を描いた映画。田舎の小学校(多分)で、新任の教師が学校ぐるみでの子供達への虐待と闘うけれど、とてもハッピーエンドとは言えない結末。実話を元にしてるというのだから、その暗さも一層救われない。「スノーピアザー」は、韓国映画じゃないんだよねあれ?それから、「グエムル」なんかも観たけど、どちらも韓国らしさは前面でないにしろ、出ていました。ほんとに、このくらいしか観てないんじゃないかな。事情通の方にしてみれば、「スノーピアザー」が出る時点で、んなものは韓国の映画じゃねえよ、とお叱りを受けちゃうかも。でも兎に角、「シュリ」とか「オールド・ボーイ」さえも、観てないんです。ごめんなさい。


「テロ・ライブ」は、非常に公開規模の小さい映画で、観られた方はグエルムに比べてもぐっと少ないかも。しかし、幾つかの前提をクリアすると、この映画はもっと全国のシネコンで多くの人に観て欲しい、素晴らしい作品です。TVのスター・キャスターが失敗からラジオ部門に左遷され、放送しているスタジオから物語はスタートする。ハ・ジョンウ扮するユン・ヨンファというキャスターが、とんちんかんな聴取者からの電話にキレたら、そいつは実は24並みのテロリストだった。局のスタジオから、眼の前で橋を爆破されたキャスターは、あろうことか、驚きながらもこれは自分にとって第一線に復帰のチャンスだと、私欲丸出しになる。上層部と交渉し、単独で爆弾犯人との会話をTV中継し、うまく投降を説得出来たら、大変なスクープだし、出世も叶うだろう。髭をそり、ネクタイを締め、スタンバイした彼は、古館さんそっくり。そこから、スタジオ内にも仕掛けられた爆弾や、不透明な要求や、警察、テロ対策班との駆け引きと怒涛の展開。密室劇でありながらビルもガンガン吹っ飛ぶ、凄まじいテンションの98分。本国では大ヒットになったらしいです。
概ね日本で観た人の評判は、
「突っ込み処満載だが、緊張感が凄い傑作!」
というもののよう。ぼくは、なるべく映画には突っ込みは入れないで済ませたい主義なのですが、この映画に関しては、敢えてその突っ込みをとっかかりにして、分析してみたいことがあるんです。

韓国での反響を見ていると、好評な上に、矛盾がない、つまり「突っ込みを受けていない」様子。納得感があるようなんですね。
多くの高校生を犠牲にしてしまったフェリーの事故対応を見ていても、或いは先出のトガニでの教師もそうでしたが、権力者達の、固執と拝金と無責任に、皆が気付いて、怒って、しかしことが起こる迄なす術もない。放送局内の権力構造も、大統領の謝罪要求拒否も、警察長官の呆れる程横柄な振る舞いも、日本だとさながら桃太郎侍なとんでもなさですが、どうやら実感としてそうだという節がある。
また、この権力構造には、警察も含まれます。国家主席が謝罪を恥とする体質は、他の文化圏に謝罪を要求する体質から見ても、顕著。つまり、謝らせれば勝ちで、謝ったら、取り返しがつかないんですね。首相が謝罪しろ、という犯人の安上がりな要求は、官邸(であってるのか判らないけど)側は決して飲まない。驚くのは、犠牲者が出れば犯人は殺人犯であり、それと正面から闘う側に大義名分が出来る。警察長官が、
「謝罪などない!お前の言い分など聞かない!すぐに自主しろ!」
とカメラに向かって恫喝する姿も、首相の立場をそのまま継承していればこそ。だと想うと尚更恐ろしいです。テロではなく、その風土自体が。
テロ対策班も警察と連携しない、独自の構造を持っているよう。しかも、方針が違うだけで、それ程鍛えられたプロ集団という様子もない、ただ反目するひとつの壁に過ぎない。頼り甲斐はない。
謝罪をどう捉えるか、保障をどう捉えるか、個人こじんにひそむ悪がどんなものか、ここの共通認識、言い換えれば国民性が、物語を回転させ、リアリティを吹き込む為には必須だった筈です。

映画としての完成度の評価は、まず上記の前提を、突っ込まずに、踏まえる必要があります。

そこから、特筆事項、この作品の特徴に入り込んでいく。
密室と、殆ど個人の芝居であること。登場人物はそれ程多くはないけれど、キャスターの完全な一人芝居のような前衛手法にせず、人影は常にちゃんとあります。彼をたった独りにしなかったのは、後出の理由と…繋がるのかな。そこはわからない。しかし、ハ・ジョンウという俳優に映画の90%がかかっているのは間違いないでしょう。観客に憎まれ、シンパシーを感じさせ、カタルシスを担うのが、実質彼の演技如何。しかし、…。
犯人像の意外さ。これは、最期に彼ないし彼女が姿を現す瞬間にかかるネタバレなので、言えないけれど、その犯人が、キャスターを圧倒しなければ、映画の重量が発生しない。そう、この犯人は、「セブン」でのケビン・スペイシー並みの存在でなくてはならない。電話での、声質。理解に苦しむような語彙の数々。計画と無計画。そして、登場した時の、眼つきですね。ハ・ジョンウに比べると10分も出て来ないこの犯人をヘビー級にする演出は、俳優にもそうとうなプレッシャーがかかったでしょう。その為に、監督の策が弄される。
キム・ビョンウという、この当時32歳というこれもとんでもない監督。非常にパーソナルな視点のこの脚本に完全な前衛独り芝居をさせず、周囲に人の気配を常に置き、畳み掛ける見せ場を作り、ちいせえ人物であるキャスターが真実に至る映画をスペクタクルにする為には、確かに「ダイ・ハード」を教科書に無能な人物と悪知恵と、息もつかせぬ展開が必要だ。イヤフォンに爆弾を仕掛けるのが不可能とかを気にしてたら、フィクションの全てを敵に回すようなものだ。ビルを破壊する行動力を、あの犯人がしたというのも、全て、サイコだからだ。そして、そのサイコ野郎にもキャスターにも観客を(突っ込みをしないぼくを)共感させ、体制を糾弾するエンディングに、本当にやられました。主演のハ・ジョンウも、シークレットな犯人も、密室から見える爆発のリアリティも、監督がそれぞれに最大の演出をしている。これは、恐ろしい映画だ。やれることを全てやった映画だ。

ただ、一応ひとつだけ、文句つけてみようかな、と想うんです。それもわりにどうでもいいことに。
檀れいさんに似た、美女が出ます。チョン・ヘジン演ずるところの、テロ対策班のリーダー。
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どう見ても頭切れそうだし正義感も強そうだし、ちゃんと仕事してくれそうなんです。実際要所要所でキャスターと連携プレイを見せる。しかしストーリー全体として見たら、いまひとつちゃんと扱われてない。これはもしかして、本当はもっと重要な役だったんじゃない?編集の都合でこうなった?

彼女が活かされていないのは残念だけれど、ここは、副産物を生んでもいる。


最近は、「96時間」シリーズのリーアム・ニーソンや、「イコライザー」のデンゼル・ワシントンが、年齢いってる分重厚な元CIAというアクションが多い。CIA最強説。記憶喪失でもボーンシリーズなんだし。しかし、「テロ・ライブ」ではテロ対策班はそれ程の機能を誇れそうもない。翻弄される警察や特殊部隊。浮き彫りになるのは、当然、国民にたまっている体制への不信感。
サムスンに代表された経済の活況は5年を待たずに窄み、日本からの観光客も激減、音楽も意外にカネにならない。何かが、標準じゃないのではないか?その疑問を最良の時間で最良の形にして見せたのが、テロをライブするプロット。冒頭に書いたコン・ユは、復讐に燃える元北朝鮮のエリート工作員というアクション映画で主演しています。もう強い強い。ぼくには彼がキタの工作員というところがツボだったりしますが、恐らく国内ではもっと普通に、警察や国内の特殊部隊が活躍する映画があるでしょう。何しろ徴兵制が生きている国ですから。だからこそ、単なるニュース・キャスターが、自分も火の粉を浴びながら真実に迫る映画があることが、しかもこれがこれ程素晴らしい作品であることが、文化の、アートの、可能性だと想うのです。


え、オールド・ボーイって、日本の原作なの?
嬉しいような、悲しいような…。
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by momayucue | 2014-11-29 15:16 | もーしょんぴくちゃー | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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