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ミシェル・ルグランのこと

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Michel Jean Legrand
1/26に、パリの自宅で、ミシェル・ルグランが亡くなりました。86歳ですが、誕生日は2/24なので、もう少しで87歳だった。生まれた地の、自宅でだから、最も心安らげる冥福だった、と想いたいです。写真のように猫もいたりして。

フランシス・レイ、ヘンリー・マンシーニと言った映画音楽の作曲家達と時代を共有しているけれど、その中でもバート・バカラックとミシェル・ルグランは超現役でした。近作はそんなにヒットもしていないし、ピカピカの新作というよりは、焼き直しが多いのは事実としても、ロマン派映画音楽の世界で(今作った造語)、この2人の現役感は突出していました。
それはどういうことかと言うと、バカラックも、ルグランも、自分よりも若い世代と共演や共作を続け、自分の領域を拡張し続けていたんです。何となく美しくてロマンチックなメロディーってだけで充分成立していたのに、そこに従属せず、移調・転調のみならず、変拍子、更に民族音楽の要素を取り込んだり、既存のオーケストラをいかにゴージャスに鳴らすかを探求し、楽器の使い方に自分のカラーを出すべく実験した。バカラックなら、フレンチ・ホルンのトップノートによる、洒脱で明るいサウンド。そしてルグランは、名作「ルグラン・ジャズ」で、トロンボーン4管による、α波たっぷりのまろやかなサウンドになる。例に出した2つはどちらも1960年代の彼等の実験です。しかしその後も、自ら歌ったり、アクティビストでもあったり(バカラックはHipHopもやった)、とどまるのを恐れるというか、ワーカホリックの典型というか、…使命として自分のスタイルを牽引せずにいられなかったのでしょう。

映画音楽の一画を担う存在の喪失としての死。フランシス・レイもヘンリー・マンシーニも故人です。そしてルグランも、というのは、本当にひとつのジャンルが消えてしまったことを意味します。こういう現場を体感してしまったことは、これ迄もありました。モダン・ジャズの終焉。AORの終焉。テクノの終焉。などなど…。いや、それぞれ継承者はいるんです。しかし、時代の節目であるのはまぎれもない事実です。そういう意味では、いかにもフランス的なあの映画音楽の作家達も、留まっていたわけではないけれど、やはり「死」というのは耐え難い現実をつきつけてきます。ルグランが、消えた…。

それにしても、ぼくは彼の関係者でも近親者でも学校の後輩でもありません。音楽家とその愛聴者として「だけの」関係でありながら、血の気が引く位に動揺したのには、理由があるんです。
時代が変わることと動揺との無関係さという、音楽から離れた心象風景の解き明かしを、誰も求めないぼくだけの記憶として以下に。

今も、「風のささやき」が自分の耳の中で鳴ったときの音像はぼくの頭の中に結ばないんです。

長い間ぼくは、「風のささやき」コレクターでした。全てを網羅してはいないし、正直このカヴァーはいただけないと感じるものが多い(スティングが歌ったバージョンもあって、ルグランはこれが全くお気に召さなかった様子。ぼくもです…)。アラン・ドロンのものもあったりするのですが、この曲は、オリジナルは英語です。スティーヴ・マックィーン主演のピカレスク映画に使われたテーマ曲だからです。全編にわたり、ルグランのテクニカルでミステリアスなスコアが輝きを放っていますが、中でもやはりメインテーマの"The Windmills of Your Mind(風のささやき)"は、ため息もの。素晴らしい。

実はこの映画は、ぼくは観ていません。サウンド・トラックだけを聴き続けているんです。
今となってはほんとに記憶が曖昧で、ぼくが憶えてると想ってるのは幻かも、と疑ってしまうこともありますが、ぼくが最初にこの曲を聴いたのは、CMでなんです。

小林薫が、久しく逢っていない友人から手紙をもらう。
ーーー最近、書をはじめましたーーー
友人が手紙を書いた理由は、昔小林さんに借りたLPレコードに傷をつけてしまったのを黙って返してしまい、そのことをずっと悔いていた、謝りたい…という動機で。手紙を読んだ小林さんはそのLPをかける。プチッという傷の繰り返しの中から、"The Windmills of Your Mind"が聴こえてくる。聴きながら彼は、
「…そうだったのか…」
と、遠い友を想う。そんなCM。サントリーだったような気がしているんだけど、もうわからない。日曜日、そのCMを見た覚えがあります。その曲に、ぼくは取り憑かれました。
3連符と早めの8分音符の融合。バッキングはかなり落ち着いているのにメロディーが早いパッセージである効果で、独特のスピード感がある。レースではなくて、つまり拍ではなくて、まさしく風が追いかけてくるような。和音の動きの素晴らしさ。自分が将来音楽をやるなんて想ってもいない子供の時分なのに、魅了されました。フランス語なのか英語なのかも区別出来ない、でも、言葉を失うくらい素敵な曲だ。
音楽をやるようになってから、常に気にして集めてました。まだCDメディアが出たての頃、ルグランのベスト盤が出たのを飛びついて買いました。クレジットもあまりわからない。フランス語だし。その1曲めが、"Tous les moulins de mon c?ur"、風のささやきだったんです。おそらくあれはルグラン本人が歌ってるのだと想われます。今朝もそれを聴いてた。今も一番好きなのはそのバージョンです。でもそれじゃない。ぼくがCMで聴いたのはそれじゃない。風に追いかけられない。
その後、様々な人のバージョンを揃えていくことに。オリジナル・サウンドトラックではノエル・ハリソンが英語で。アラン・ドロンはフランス語。ダスティ・スプリングフィールドのはまるで別物だけれど、なかなか人気があって、そのアレンジで竹内まりやがカヴァーしてたり。人気曲だから沢山ある。ジェシー・ノーマンのも圧巻だった。でも、ぼくが聴いたあれには、今もって巡り合えないでいます。
ひょっとすると、…ノエル・ハリソンのオリジナル・バージョンだったのかも知れない、と今は想っています。記憶の中でフィルターがかかったのかも、と。ただそれでも、自分が幻の中で聴いたその「風のささやき」の神秘の速度、匂い、胸をかきむしるような切なさ、…。
それに、もう一度出逢いたいという気持ちが消えることはないです。自分で出来ないだろうか、と作った曲もあります。それはかなり好きな曲になりました。

それでもね、やはり、幻想の原典に出逢いたい。

そんな想いをずっとしていたから、…なんて説明が他人に有効なのかどうか、甚だ心許ないし、無価値かも知れないです。でもぼくは、ミシェル・ルグランを失った。その喪失感が、ずっと自分の廻りの空気にたちこめてるんです。


ありがとう。さよなら。

















by momayucue | 2019-01-28 21:07 | イージーリスニングは最高!! | Comments(0)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


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