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もーしょんぴくちゃー

死者の「レプリカズ」と、キアヌ・リーヴスの、浅い深読み

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「キアヌ・リーヴスはとてもとてもいい人~」
という噂をよく聞きます。飾らない性格と、無数のエピソードと、根も葉もないスキャンダルにも反論しないポリシーと、大ヒット作を繰り出しながら失敗作も付き合うことと。どう考えても当たらなそうなストーリーでも、映画マニア人生に正直であろうと主演しちゃう。
「変人じゃないニコラス・ケイジ
と呼んじゃおうかな。或いは、
「ずば抜けた穏やかさのジョニー・デップ
というのもいいな。
普通は、あんなに本意でない噂をたてられたら機嫌も悪くなるし、行動に出ちゃうこともあるでしょう。ところが、キアヌに関しては、行動で失敗っていうのが、思い当たらないんです。何かあります?ぼくが知らないだけ?尤もぼくは彼のしぶといウォッチャーじゃないから、絶対とは言い切れないけどね。では、行動以外でだったら…、いやもうなんつっても失敗なのは、映画俳優としての作品選びでしょう。だからニコラス・も意外なスベッたものがあるし、若干変人っぽさもある。

キアヌ・リーヴスのスターとしてのキャリアは、ハートブルー辺りが始まりだと想います。ベルナルド・ベルトルッチという途轍もない監督の作品でブッダを演じたりするメガトン級の重責にも負けず、彼は素朴で善良な人柄のまま、アクションスターとして数年毎にヒットを飛ばし、いやいやそれに飽き足らずハリウッドを挑発するブームさえ起こしてる。ダイ・ハードの後にもし「スピード」が無かったら(あれ?リンク間違った??)その後のノンストップ・アクションの幾つかはどうなっていただろう。もしも「マトリックス」が無かったら、アクションとCGと更に電脳という世界観も様変わりしていたでしょう。そして、とあるヒットシリーズの影響で矢鱈とカメラが切り替わるようになってしまった格闘シーンが、「ジョン・ウィック」によって、編集ではなく場面が流れるようになった。

「レプリカズ」、知ってますか皆さま?
キアヌ史上最低のスタートアップで公開され、アメリカの批評家には、
「実に出来が悪いが、出来の悪さを売り物にも出来ない」
だってさ。酷い言われようだ。Amazonの一般評はいつも通りばらけたりおだてたりくさしたりが色々なんだけど、今日のたにふじはね、もーしょんぴくちゃーカテゴリーの中でも相当にお節介なカンジです。
出来が悪いとか、普通に言える批評とは、全然違うことをこれから書きますよ。ネタバレも「何もそこまで…」というところ迄しつつ、やっちゃいますよ。

ウィリアムは充実していた。美しい妻のモナと3人の子供。天才と、その天才を活かせる職業。彼の仕事は、学者ではなかった。バイオ関連の巨大企業で、人間の全ての脳活動を移植する研究をし、それがその企業に大きな利益をもたらす筈だった。
冒頭から、ロボットに脳を転送された上級兵士が暴走し、「これはちと筋の悪いことをやってるな…」感が濃厚。自分の置かれた状況に激しく混乱した兵士は、結局電源を切って脳死させるしかなかったりしてます。SFホラーとしてはもう先を読みたくなるじゃないですか。
「これは映画開始30分後くらいに実験成功して、しかしその人はかつての人物じゃなかった…テキな。或いは、研究者ウィリアムは病んでいくとか?」
そうです、前半はホラーでいくぞ、いくぞいくぞ、…。
バカンス。家族で休暇を楽しむ為、激しい雨だけどドライヴを。観客の予感は的中してしまう。事故で車が水没し、ウィリアムを残して全員が、死んでしまう。そこで悪魔の知恵がウィリアムに。会社のバイオ技術は、当然ながらクローン技術も含有している。クローンに、家族の意識を転送し、部分的に修正して、事故直前の家族を再生してしまおう。友人を説得し、密かに自宅で、彼は禁断の実験を始めてしまう。
数日後、次女を除いて全員が、普通の生活を始めた。次女は、パーツが足りなくて見送ったのだ。その記憶は除去されているので、ウィリアム以外の誰も、喪失感を持っていない。時々、モナが幽霊のような態度を取ったり、不規則に身体に違和感を持ったりしながら、徐々に全てが、馴染んでいく…筈だった。
銀河鉄道999の劇場版第一作で鉄郎は、
「気付いたんだ。限られた命だからこそ人は…」
云々と、ポジティブ有限人生説を語ります。しかし、どう考えても、それは正論でありながら綺麗事です。誰だって、死は怖いし、とりわけ身近な人愛する人の死は、怖いを通り越して、受け入れ難い。拒絶出来ないから哀しいし闇に取り込まれてしまう。そうですよそうですよ、普通は、闇なんです。だけどその闇、失った家族を取り戻す為に何かの行動をするのは、強迫観念にさえなって個人を支配していくものです。だからこそ、それこそどんな人でも、癌になったら怪しげな民間療法に入れあげたり宗教に多額の布施をしたりしちゃう。全くそれに惹かれなかったらオニですよある意味。
そんなホラーが、急展開します。
この急展開が、キアヌにとっての決め手かもという勝手な深読みの伏線だけ張って、急展開とは何か、ですねはい。
バイオ企業は企業だから当然実験は投資と考えている。成果が出なかったら、莫大な費用は唯の損。しかし、死人を蘇らせるのは、ゴールではなく手段で、ゴールは、そうお馴染み軍事利用。そう言えば映画冒頭でのドナーは兵士だった。そこにパイプがあったのか。そうなるとバイオ企業は単なるケチじゃない、人命すら簡単に奪い、研究の成果を得ようとする。成果すなわち、ウィリアムの家族だ。漸く家族らしさを成してきたウィリアムの、絶望的な逃走が始まる。GPSチップを破壊し、ヨットハーバーに忍び込み…しかし、結局彼が眼を離した隙に家族は拉致された。ウィリアムは家族を奪還する為、起死回生の超SF的な賭けに出る…。

ここ迄書いといてなんですが、最後のオチは、伏せときます。伏せときますが、あからさまなハッピーエンドなんです、とだけ。

途中で逃走劇に変わることが批判されたり、すじがきに無理があり過ぎると突っ込み警察に言われたりしてますが、それでも残っていたこの映画が名作になる方法が、ラストに見事にひっくり返されています。
だってさ、モナは、知るわけですよ。自分は既に死んだ自分のレプリカだってことを。本当はもう1人いた娘が復元出来ず、やむなく夫がその記憶を消したことを。彼がしたことが、倫理的に許される類のことではなく、その結果自分がいると。そして更に、それらの全てが戦争に使われる全人類的脅威だと。ここに力点を置いたら映画の結末は、普通に想像するなら悲劇中の悲劇です。ウィリアムとモナは、身を呈して悪事を阻止し、研究も、バイオ企業も、歴史の闇に消えていく、しかしエンドロール後に……。
これだったら、かなりな重量の傑作になっていたと、想いません?ぼくだけですか?

どんなスターにもある失敗作。別に珍しいことじゃない。しかし、敢えてこの作品について延々と浅い深読みをしたかの理由は、もうおわかりかしら。キアヌは企画のかなり初期からこの作品に関わっています。プロデューサーとしての契約かどうか、すみませんそこ迄はわからない。ただ、あまりにも、彼がウィリアムを引き受けるということに、既にある種の呪いがかかってる気がして。妹が白血病で長いこと集中治療を受けていた。同業者で大スターだった親友がドラッグによって早くに他界したり、恋人との間に出来た子供が死産し、その恋人も薬物摂取中の運転で死亡。
「極限状態での恋愛は長続きしない」
とは彼の出世作での有名な台詞ですが、俳優として大成功したのに、彼は自分というものを見失うことがないように見えます。続編をやんわりと辞退して全く毛色の違う映画を優先したり(あれ、出てたら面白かったろうな…っていうかキアヌじゃないのは無理があったよな…)、ハーレーダヴィットソン好きでプレゼントに全スタッフに贈ってたり(ほんとかな…怪しいなこれは…)、ラーメン好きだったり、ハンバーガー好きだったり、電車で席を譲る姿も有名。更なる成功よりも、人生をよりよく生きる為ならもうこの位でいいよという態度。ベーシストでもあるんだよね。巧いのかな、そこが問題だ。それは兎も角彼が何処からもイイ噂しか出てこない好人物なのは、多くの者を失ってきたからだと言った説明も、そこかしこで聞くものですよね。しかしこれらの経験からサイコなニヒリストになる可能性だってあったのに、そうはならず、目立たないところでも優しいみたいよ。
そうして優しい人には、罠がある。愛する人の命が失われるときに、自分に何か出来なかっただろうか、少しでも、無駄でも、何かすべきだったんじゃないだろうかと無限に悔やみ続けてしまう。変なまじないに巻き上げられたりでもいいから、何かせずにいられない。

「伏せたけど、ハッピーエンド」
そうこの映画について書きました。このハッピーエンドに共感するのは、誰にとっても非常に困難だと想います。よくて、
「まじか!」
普通は、
「いやそれで終わり?」
よくよく考えると、
「こいつら戦争で儲けるのか!?」
でもさ、これ、映画なんですよ。映画でくらい、キアヌが自分の人生を通り過ぎて行ったかけがえのない人々をレプリカにするのを見逃してあげましょうよ。そんなことは作品とは関係ない?作品とは、ね。でこの浅め深読みに気付いてしまったら、
「この映画、最悪の悲劇で重たく終わるよりも、キアヌじゃなくて自分の人生で求めてしまった結末かも知れなくて、
余計に記憶に残ったりしないだろうか…」
と想い直したりしませんか?

「死」は、死者のものではない。
遺族や、友人や、死者に置いて逝かれた、生きている者にとってのものが、「死」なんです。
























Commented by macky023ownd at 2020-08-13 12:15
うーん、はじめから失敗作を作ろうと思って制作に入る映画人もいないでしょうからねぇ。判断の難しいところ。
Commented by momayucue at 2020-08-13 17:44
mackyさまいつもありがと!
ほんとに浅知恵の深読みなのだけど、
あの着地が、キアヌ自身を癒すものだったんじゃないかと想うのです。
by momayucue | 2020-08-08 23:50 | もーしょんぴくちゃー | Comments(2)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


by momayucue
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