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つれづれ

NO SIDE/松任谷由実

ニュー・ミュージックな、たにぴ@もまゆきゅです。
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何年かに1度、松任谷由実のdown town boyを街中で聴いて泣くと言う習慣が、
どうもぼくにはあるらしいです。
佐野元春のも大好きだけど)
おもに、ワーキンクラスの少年とお嬢様らしい冒険心を持つ女の子との、
ロミオにもジュリエットにもなれない淡い恋と、
懐かしみながらも切ない歌唱をしてる当時20代後半のユーミンと、
音像のシルキーさ等が相まっての涙なのだと想います。

一緒に聴いていきましょうか。
林立夫とおぼしきスネア2発に続き、
印象的な正隆さんのキーボードが流れてきます。
ぼくにはそのキーボードのコードが、その後に続く主人公の「お嬢様らしい冒険心」を表しているように聴こえます。
そして松任谷さんの声。
「あんなにナイーヴなひとにはそれまであったことなかった私」
下町育ちの、山手へのコンプレックスを抱えたワーキングクラスの若者が、「ナイーブ」と表現される。
彼女の声が、冒頭から、歌詞だけでなく声それ自体が、
幾分大人になって過去に出逢った彼の存在をいたわるように楽曲が滑り出す。
そして上記の歌詞部分だけでももう、抱きしめたくなるようなキュートな転調。
そのフレーズの節目に、松原正樹が、地味ながらこれ以上ないギターを。
「あなたは素敵なDOWN TOWN BOY 不良のふりしている
気まずいことがおこっても 私をあきらめないでね」
気まずいという言葉がまとっている、瞬間ではない数分の重力。
この単語を選択した彼女のセンスに驚嘆します。
「ミラーに泣きながら小さくなった」
の名場面は、恐らくアタシ流の名場面をここにも入れとくわよ、くらいの余裕を、
それでも渾身の名場面を。
ミラーに小さくなるなんて表現は、非常に持ち運びが良くて、
どんな曲の歌詞にも挿み込める。
ただそれを何処でばっさりと挿み込むかに、彼女のシャーマニズムが滲むんです。
情景と時間と心象のブレンド。
「勝気な瞳のDOWN TOWN BOY 未来を夢見ていた」
勝気が、もし言葉だったら切なくない。瞳だから、ぐっと堪える切なさがある。
「何処かで恋をしてるなら、今度はあきらめないでね」
未来を夢見ていた彼にかけるこの言葉は、当然恋も、そして恋だけでなく、
あきらめないで、と。
夢を叶えてね、と。
もうこの段階でぼくは、少女の欺瞞さえも切なくて涙を抑えることが出来ない。
そしてオケがフェードアウトし、
「DOWN! TOWN! BOY!」とリフレインするコーラスを残して曲が終わります。
コーラスは、工場の音のメタファーです。

この曲を収めているアルバムは、コンセプトがスポ根!と当時から松任谷さんが言っていて、
報われなさも犠牲も美しい…、と憑き物堕としをし、アルバム全体で宇宙を表しています。
この時代、つまりリアタイでぼくが彼女の音楽を聴いていたのは、
普通のラヴソングの配列によって神話的世界を、という彼女一流の手法の真っ盛りの時代。
「DA・DI・DA」迄は夢中になって聴き、
ところが、
「Delight Slight Light KISS」(リンク先にキケンな皮肉がありますのでご注意を)で、ピタッと追いかけるのをやめてしまったんです。
「どうしてどうしてぼくたちはー」に世間はやっぱりユーミンは凄いとリフレインに沸いてたのに、
当時の流行も結構松任谷さんに追い風が吹いてた頃なのに、
ぼくはもうノレなかった。
バブル期と重なるのは、自分個人にとっては偶然なんだけど。
つまり、松任谷さんがダメになったとか、そういうつもりは全くないです。
とあるベスト盤のタイトルはいくらなんでも最悪でしょと想うけど)

さて、
シティポップの世界的評価が語られる昨今であります。
しかしその中にあって何故かあまり松任谷由実は登場しないです。

実は、松任谷由実最大のヒット曲は、
あの代表曲とかじゃないし、あの映画主題歌でもない。
例えば海外のシティポップ・ディガーが、まっさらな情報の海からググって松任谷さんの代表作を捜したとします。
掘る為にユーミンを聴くと、現在に至る現役感のピークは、
80年代のニュー・ミュージック期よりは、
「春よ、こい」のようなオリエンタルになってしまうからじゃないかしら。穿ち過ぎかしら。
でも「春よ、こい」が入口に鎮座ましていると、仕分けの段階でこのヒトはしてぃぽっぷじゃないよね…って想われちゃう。

それから、クリエイターとしては常に世界というか脳内の宇宙をパワフルに描くユーミンですが、その為に、
敢えて自分の視点を狭める判断をしていることがあります。
今はそんなことないと想うけど、この曲の当時のインタビューで、
ニューヨークに興味はあるんだけど、何か良くない影響を受けそうな気がして今はまだ避けてる」
と語っています。
(↑リンク先のアルバム当時桑田佳祐さんはN.Y.に渡り、対峙はするけれどまあキライだな、と発言していました。
ぼく自身も1986年に渡米し、そのまま半年住みついてました。
クリエイターにとってはニューヨークというのはある種、それこそ神話的世界なのです)
そしてもうひとつ、佐野元春のラジオ番組にゲスト出演したとき、モトハルと、
松任谷「自動車学校行って免許とってって考えることもあるけど、あくまでドライバーの世界は知らないで、『助手席評論家』でいたいの」
佐野「でも、運転、いいですよ。風景が飛んでいくんですよ」
という内容の話をしていました。
そして決定的なのは、はっきり記憶してないのですが雑誌で、
「育児とかで所帯じみてくのは避けたい。ただ、このあいだ竹内まりやさんに逢ったとき、
『出産って凄い体験よ』
と言われて、それは一寸興味をそそられた」
なんてことを語っています。
それから、頑として政治的分野に首を突っ込まなかったこと。
これは実は非常に影響が大きかったとぼくは見ています。
日本のミュージシャンが得てして政治について関わらないという現在に至る迄の風潮は、
ユーミンに右倣えしたのではないか。
しかしその圧倒的な自己管理と自己プロデュースと差別化とアートへの献身も、
twitterのような速度の時代には、翳りが見えます。
某首相が退陣に追い込まれた際に、
「同い年で、気持ちがわかってしまい泣いちゃった」
という主旨の言葉を。
もう時代の音楽の感度を代表するあの圧倒的な音楽家ではない、
はっきり言って時代の一線を退いたのだな…、と、わかってしまう発言でした。
それと、要するにイデオロギー音痴なのもね。

余談ですが、ぼくが某首相と記したのは、曖昧にしたいからではなく、名前を書くのも不快だからです。

事程左様にユーミンさん、英語圏的には少し小粒な印象。
個人的には、「少なくとも音楽はちゃんと聴いた方がいいのに」と想います。

それはさておき、
「生活感の気迫な菩薩」
であるユーミンの真骨頂、
生活感を周到に排除し、歌詞の一人称は自分の声以外にない、しかし、
不思議なことにその一人称はユーミンじゃない。結果リスナー自身の体験になる。
その点に松任谷さんは間違いなく注力しています。時には、
「いや何もそこ迄…」
とさえ想ってしまう程ストイックに。

再び、DOWN TOWN BOYに話は戻ります。

数年に1度、ってことは殆どの時期は忘れてるってことになる。若しくは、遠ざけてる。
やばいですね、ギョーカイの女王を…(ぼくらがはしっこなだけ~)。
やっぱり辛いのは、ロミオとジュリエット「にはなれない」というトレンディ臭さと、
懐かしくも彼を応援するという姿の陶酔と、
それらを、余裕で自覚してアルバムの1曲に収める松任谷さんの全方位プロデュースということになる。
あとねー、ニュー・ミュージックなんすよね。これが今、意識してはいるんだけど音楽的にぼくには届かないところで折り返してしまう。

それでは何故、数年に1度号泣シーズンが到来するのか。

コンサートだと普通なパワーポップの役割りになっていますが、アルバムだと、
この曲に限らず、松任谷さんの作品はエバー・グリーンな作り。
ミックスがNO SIDEからマット・フォージャーという人物に変わり
(クインシー一派の人らしいですが、他では名前をみたことがありません)、非常に上品な音。

ぼくがユーミンをリアルタイムで聴いてたのは、17歳頃です。
高校生の自分は、失礼で、万能感の割に失敗し、バカで、スケベで、情熱家で、半径3kmで絶望する、
つける薬のないダメガキでした。
あれから10年(うそ)、挫折しては成長もし、
「高校生の頃に、この戦略が取れたら…」
なんてことを考えてみたりするんです。
「あのサインを、どうして理解してやれなかったのか」
「なんであんなことを言って傷つけてしまったのか」
その他幾つも幾つも…。
そうして何かの機会に、今なら云々という精神状態になると、
つまり、そういう周期で、ユーミンさんを聴き、シンクロするんですね。

それはイコール、
もう決して若くはなれないことを突きつけられることでもあります。

最近の松任谷由実、もう若き天才のふりは出来ず、
物真似の方が当時の怖さが伝わる押しも押されもしない大御所として、
周囲を圧倒してなんぼな巨匠の活動をしてます。
とっくに、彼女自身にもdown town boyは歌えない。それは大御所とは関係ないか。
関係ない…つまりぼくにも、もう青春を使い果たしたと言うしょぼい事実があるってことです。大御所じゃないぼくにも、枯れは容赦ない。

あの時のdown town boy、たとえプロレタリアートとエスタブリッシュメントの残酷な恋だったとしても、
ロミオは何処かで夢を叶えて、或いは違う夢に気づいて、
あきらめていませんように。

あきらめないでね。
























































Commented by t_yana at 2022-06-27 23:59
通りすがりのものです。
「ミラー」はバイクか?車か?
結論が出せず40年近く経ちます…。
そんなわけでこのアルバムは特別です。
Commented by momayucue at 2022-06-28 10:25
t_yanaさんはじめまして、書き込み感謝です!
ご指摘頂くまで全く気づきませんでした。普通に車だと想ってました。
多分ぼくが普免しか持ってないからでしょうけど、しかし状況から鑑みると単車の可能性、高そう。
ユーミンの場合、自分が浮かべた風景はきっとあるんだけど敢えてミラーだけを描写したんでしょうね。
t_yanaさんのblog拝見しました。あまりのオールスター・キャストに驚いています。
Commented by momayucue at 2022-06-28 10:32
t_yanaさんって、なんだ口笛太郎さんだったのね!
ご無沙汰過ぎてはじめまして!
…って言うかお逢いしたことはないですね。
by momayucue | 2022-05-09 21:13 | つれづれ | Comments(3)

モンキーマインド・ユー・キューブ・バンドのミュージックライフ。 こんな時代も音楽でしょう!


by momayucue
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